meineko’s blog

元つくばの某独立行政法人勤務の植物屋です。最近は、ほぼ、突発天体の話題です。

フロリゲン

例のFTの論文、今日、部屋のゼミで紹介がありました。
丁寧にやっていただいたので、結構、理解が深まりましたので、メモ。


日の長さを感じる植物が、日の長さを感じるのは葉で、花芽の出来る茎の先端(shoot apical meristem)に葉からなんらかの情報が行っていることは、1930年代の接ぎ木の実験で判っていました。
その情報を運ぶ物質として花成ホルモン(フロリゲン)が仮定されていました。
このフロリゲンを特定するという研究は、結構、ホットな分野です。


生理的研究の最近の例では、サリチル酸がウキクサの花を促進すること等が判ったり、サトイモでは植物ホルモンのジベレリンが花を促進することが判ったりしました。
しかし、これらの物質が、直接、花芽形成に関与するかどうかは、不明で、フィロリゲン特定には至っていませんでした。
#フロリゲンというのは、特定の物質ではないのではないかという考えが大勢を占めている時期もありました。
#また、植物ホルモンの様な低分子の物質なのか、それともタンパク質の様な高分子の物質なのかも長年の論争でした。


一方、日長に対する反応性が変わってしまっているシロイヌナズナやイネの突然変異体を遺伝的に解析することで、CO(イネではHd1という名前)、FT(イネではHd3a)という遺伝子が同定され、FTの遺伝子発現は、COの制御下にあること、日長を感じてCOを制御してるのは、ファイトクロムであることがわかりました。
FTは、フロリゲンの有力候補でしたが、そのタンパク質構造から転写制御因子である可能性が低く、直接、花芽形成を行っている遺伝子の発現を制御しているとは思えませんでした。
しかし、2年前、FDという花芽の出来る茎の先端で発現している転写因子が、FTはFDと協調して、花芽形成を開始させる因子として働くことがm、シロイヌナズナを使って日本の研究グループによって判りました。
FTとFDのタンパク質が直接結合するのが確かめられたこと、FDまたは、FTのどちらかを欠く突然変異体は花の咲く時期が変わること等から確かめられました。


同じ雑誌に、葉で作られたFTのmRNAが、茎の先端までし管を通って茎の先端まで動いているということを発見した論文が出ました。
#移動した茎の先端で、FTのmRNAからFTのタンパク質が作られて働きます。
これまで、FTは、タンパク質として葉から茎の先端へ移動するのではないかとか、FTが関与して作られた別の物質が移動するのではないかとか様々な考えがあって、研究競争をしている最中でしたから、大変注目された(おどろかされた)論文でした。
ヒートショックタンパク質のプロモータをつないで熱によって発現が制御される様に改変したFT遺伝子を使って、葉だけに熱を加えることで、葉のみでFTが発現される様にした工夫された実験手法も注目されました。
#シロイヌナズナは小さいので接ぎ木の実験は大変。


しかし、その後、し管の中にはFTのmRNAが見つからないという報告があったりして論争が続いていました。
FDを見つけたグループも、FTは、タンパク質で動くという感触を得ていて、研究を続けていたようです。
その中、先月、FTは、やはりタンパク質の形で葉から茎の先端まで移動するという論文が、イギリスと日本(FDのグループとは別、実験材料もイネ)の2グループからだされました。
FTにクラゲの蛍光タンパク質(GFP)をつないで、移動を確かめています。
し管から茎の先端へ高分子であるタンパク質が移るところの機構とか、まだまだ、確かめないといけないことがいくつもありそうです。
フロリゲンの研究競争は、今回の発見で、決着がつくでしょうか?


2年前のmRNAで動くことを示した論文は、今年4月になって、データの解析に不備があったとして取り下げられました。
しかし、論文の第一著者(First author)は、データの取捨には問題が無かったとして、この取り下げ請求には名前を連ねていないことも、話題になっています。


フォロリゲンは、ずっと正体が不明だったということで注目されていました。
また、花の咲く時期を調整することは、農業とか花の栽培とかに役立ちます。
例えば、先にでて来たサトイモの花はなかなか咲かないので、交配による品種改良がし難いのでした。
また、北海道でのイネの栽培等、イネの高緯度での栽培には、ファイトクロムやHd1やHd3a(および関連遺伝子)の突然変異が、育種上で利用されて来たことが判ってきました。
しかし、開花時期を決めている機構については、まだまだ、判らないことばかりです。今後も、ホットな研究分野でしょう。


ちなみに、花芽の形成自体は、花の構造が変わってしまった突然変異体の解析からその過程に関わる遺伝子がよくわかっています。
また、シロイヌナズナは長日植物、イネは短日植物なので、よく比較されます。
#でも、イネは、シロイヌナズナより成長が遅いので実験が大変orz


#遺伝子(実態はDNAの塩基配列で記述された情報)だの、mRNAだの、発現制御だの、ごちゃちゃして判らんという人は、一度、セントラルドグマgoogleなりして調べるなりしてください。